もろ差しの極意とは?力士が勝負を制するために磨く究極の組み方についてわかりやすく解説

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監修者・水口 剛

元力士・祥鳳剛(本名:水口剛)。春日山部屋に所属し、2004年に初土俵、幕下東四枚目まで昇進。白鵬関の代理として弓取り式を務めた経験を持つ。
引退後はYouTubeチャンネル「お相撲ぐっちゃんねる」の運営や稽古会の主催、相撲体験イベントの企画などを通じて、相撲文化の国内外への発信に尽力。
Netflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』では炎鳥役として出演したほか、舞台パフォーマンスなどにも参加。
現在は訪日外国人向けのインバウンド相撲イベントや相撲ショーを開催するほか、パーソナルトレーナーとしても活動し、相撲の魅力を伝えながら健康づくりにも貢献している。

相撲の取り組みでよく耳にする「もろ差し」。それは、相手の左右の脇の下に両腕を深く差し込み、自分の体勢を有利にする技のことです。見た目は単純でも、実際には力士の重心・間合い・心理戦が融合した高度な戦術です。本記事では、もろ差しの基本から成功のコツ、名力士が見せた極意まで、初心者にもわかりやすく紹介します。

もろ差しとは

もろ差しとは、相手の左右の脇の下に両腕を差し込んで、胴体を抱え込む体勢のことです。両腕で相手を包み込むことで、相手の腕を自由に動かせなくし、押し出しや寄り切りなどの技へとつなげやすくなります。

日本語で「差す」とは「腕を差し入れる」ことを意味し、「もろ差し」は「両方の腕を差す」という意味です。もろ差しは、力士の得意技や戦法の基礎として頻繁に用いられます。


もろ差しの基本形

要素内容
腕の位置相手の左右の脇の下に深く差し込む
重心低く安定させる
目的相手を押し出す・寄り切る体勢を作る
有利点相手の動きを封じ、主導権を握ることができる

もろ差しの力学と戦術的価値

もろ差しは、単に力を込める技ではありません。相手の重心を奪い、身体の中心を制する戦術的な技です。相手の胴を両腕で包み込むことで、相手は体を反らせたり腕を使って防御することが難しくなります。

もろ差しの最大の魅力は、「攻防一体」である点です。攻撃の起点になりながら、同時に相手の動きを封じる守りにもなります。


もろ差しが有利になる理由

観点説明
力の伝達両腕で相手の胴を支えるため、自分の力を効率的に伝えられる
安定性重心が低くなることで体勢が崩れにくい
攻撃の連携寄り切り・押し出し・吊り出しなどへ連携可能
精神面主導権を握ることで心理的にも優位に立てる

心理的優位をもたらすもろ差し

もろ差しを取られた側は、腕を上げることができず、反撃の手段が限られます。そのため、心理的にも焦りが生まれ、防御的になります。一方で、もろ差しを取った側は「勝負を支配している」感覚を得るため、冷静かつ積極的に攻めることができます。

相撲では「気迫」も勝敗を左右する要素です。もろ差しを取ることで、肉体だけでなく精神面の優位も築くことができるのです。


もろ差しを成功させるためのコツ

もろ差しの基本は、低い姿勢とタイミングにあります。立合いの瞬間、腰をしっかり落として相手の懐に潜り込むことができれば、自然ともろ差しに入りやすくなります。

ただし、腕をむやみに差し込もうとすると、相手の張り手や突きに反撃される恐れがあります。重要なのは、相手の動きを読む観察力です。相手が前のめりになった瞬間や、重心が浮いた瞬間を狙って腕を入れるのが理想です。


もろ差しを決めるためのチェックポイント

ポイント内容
姿勢腰を落とし、背筋をまっすぐに保つ
タイミング相手の重心が前に出た瞬間を狙う
腕の動きまっすぐ差し込むのではなく、円を描くように入れる
足の位置相手の足の内側に自分の足を入れる
呼吸吸うタイミングで差し込み、吐くときに押す

もろ差しの応用と防御

もろ差しは攻撃だけでなく、防御にもつながります。相手がもろ差しを狙ってきたときは、腕を外側に張り、差し込まれる前に自分の位置を確保することが大切です。

もしもろ差しを取られてしまった場合は、相手の腰を切るように回り込むか、体を横にずらして体勢を崩します。焦って力で押し返そうとすると、相手の思うつぼです。冷静に動いて体勢を立て直すことが、防御の基本になります。


もろ差しの攻防パターン

状況有効な動作注意点
自分がもろ差しを取った腰を低くして押し出す腰を上げると体勢が崩れる
相手に取られた腰を切り、回り込みながら体を離す無理に押し返すと危険
互いに狙っている先に内側を取る手の位置取りが勝負を分ける
押し合いになった足の位置を調整する重心を高くしないこと

外国人にも理解しやすいもろ差しの魅力

もろ差しは、柔道やレスリングにおけるグラップリング(組み合い技)と共通する要素を持ちます。相手の体の「内側」を取るという考え方は、どの格闘技にも存在します。英語では「Inside position」と呼ばれ、相手の中心線を制することで支配権を得る戦術として理解されます。

外国人観戦者にとって、相撲の突きや押しは視覚的にわかりやすいものの、もろ差しのような「組みの技」は一見地味に見えるかもしれません。しかし、実際には極めて戦略的で、勝負を決める要素を秘めています。相撲の醍醐味は、この技と技の駆け引きにあるといえるでしょう。


名力士に見るもろ差しの極意

歴代の名横綱の中でも、白鵬はもろ差しを象徴する存在でした。立合いから一瞬で両腕を差し込み、体を密着させながら相手を寄り切る流れは、まさに芸術的な精度を誇ります。白鵬のもろ差しは、「速さ」「正確さ」「安定性」の三拍子がそろった理想的な形といわれます。

また、体格差を補うためにもろ差しを活用する小兵力士も多くいます。小柄な力士は、相手の懐に深く入り込み、下から突き上げるように押すことで、重心の高い相手を崩すことができます。これにより、体格差を技で覆すことが可能になります。


まとめ

もろ差しは、相撲の中でも最も基本でありながら、最も奥深い技です。両腕を差し込むというシンプルな動作の中に、姿勢・重心・間合い・心理戦といった複雑な要素が融合しています。

相撲の本質は「力を正しく使うこと」です。もろ差しはその象徴ともいえる技であり、力と技の調和、心の落ち着きと攻めの積極性を兼ね備えた総合戦術です。初心者や外国人の方も、この技を理解することで、相撲の奥深さと日本の武道精神をより深く感じ取ることができるでしょう。

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