力水(ちからみず)とは?土俵に上がる前の神聖な作法をわかりやすく解説

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監修者・水口 剛

小学6年生から相撲を始め、報徳学園高校、立命館大学を経て春日山部屋に入門し、プロの力士として活躍。
2016年に現役を引退後、人気のサブスクリプション型ドラマ『サンクチュアリ』に出演。
現在はYouTubeチャンネル「お相撲 ぐっちゃんねる」を運営し、相撲の稽古方法や技術、現役時代の体験談などを発信。

力水(ちからみず)は、大相撲の取組前に行われる身心を清める神聖な儀式です。控え力士から差し出される水を口に含み、吐き出すことで不浄を祓います。これは単なる所作ではなく、相撲の礼儀・精神性・伝統を凝縮した瞬間です。本記事では、その意味、作法、歴史、そして外国人にも伝わる魅力をわかりやすく紹介します。

力水とは何か

大相撲の世界には、長い歴史の中で受け継がれてきた多くの儀式があります。その中でも力水(ちからみず)は、土俵入りや取組前に行われる清めの所作として欠かせない存在です。力士が土俵に上がる前、控え力士からひしゃくで差し出される水を口に含み、口内をすすぎ吐き出します。これは単なる喉の潤しではなく、神聖な土俵に上がる前の身心の清めを意味します。力水は古くから「水によって穢れを祓う」という日本の神事的な考えに基づいており、相撲の宗教的背景や精神性を象徴しています。外国人観戦客にとっては、試合の一部ではないにもかかわらず、印象的で独特な光景として記憶に残る儀式です。


力水の由来と意味

力水の由来は、神道の「禊(みそぎ)」の思想に遡ります。古来より日本では、水が不浄を清める力を持つと考えられてきました。相撲は神事と密接に結びついた文化であり、土俵は神聖な場とされています。そのため、土俵に上がる前に力士が水で口をすすぐことは、言霊の浄化、心身の清め、邪気払いの意味を持っています。特に江戸時代以降、相撲が庶民の娯楽となる中でも、この儀式は廃れることなく続いてきました。水は力士の体力や精神力の象徴ともされ、試合前の集中を高める効果もあります。力水を受け取る動作やタイミングも厳格に決められており、その所作自体が一種の礼儀作法として成立しています。


力水の流れと役割分担

実際の取組での力水の流れは、以下のような順序で行われます。
控え力士は次の取り組みを待つ力士で、取組前に自分の順番が回ってきた力士へ力水を渡す役目を担います。力水は柄杓(ひしゃく)を使って差し出され、力士は一度口に含み、土俵下の力水受けに吐き出します。この際、水を飲み込むことはせず、必ず吐き出します。控え力士が差し出す水には「次はあなたの番だ、頑張れ」という意味合いもあり、儀式と激励の両面があります。

役割担当者内容
力水を渡す控え力士柄杓で水を差し出す
力水を受ける出場力士水を口に含み吐き出す
力水受け土俵下係吐き出された水を受ける器を管理

力水と外国人観戦客の視点

外国人にとって力水の儀式は、試合以外での見どころの一つです。特に、スポーツの試合前に口をすすぐという行為は珍しく、宗教的・文化的意味合いを強く感じさせます。解説なしではただのルーティンに見えるかもしれませんが、その背景を知ることで相撲観戦の奥深さが増します。近年では英語や中国語で力水を説明する案内板やアナウンスも導入され、外国人観戦客にも理解しやすい環境が整いつつあります。観戦ツアーでは、この儀式の意味を知ることが土俵入りや取組を見る前の重要な知識となっています。

外国人が感じるポイント説明
珍しさ他のスポーツにない儀式で印象的
神聖さ日本文化の精神性を感じられる
写真映え所作が美しく撮影したくなる場面

力水に使われる道具と管理

力水で使われる道具は限られていますが、その一つひとつに意味があります。柄杓は木製や金属製で、取っ手が長く、力士同士が直接手や口を触れないよう工夫されています。また、吐き出された水を受ける力水受けは陶器や金属製の器で、清潔に保たれています。力水に使う水は毎回新しいものに取り替えられ、衛生面にも配慮されています。感染症対策としては、近年では紙コップを使用する場合もあります。

道具名素材特徴
柄杓木・金属長い柄で衛生的
力水受け陶器・金属水を安全に受ける
水差し容器ステンレス等常に新鮮な水を確保

力水の作法と注意点

力士が力水を受ける際には、いくつかの作法があります。まず、控え力士から柄杓を受け取る際は右手で柄を持ち、左手で下を添えます。口に含んだ水は飲まずに吐き出し、必ず器に向かって行います。これは観客や他の力士への配慮であり、礼儀を重んじる相撲らしい所作です。また、力水は勝敗に関係なく交互に渡されるため、前の取組で勝った力士が次の力士に渡す場合もあれば、負けた力士が渡す場合もあります。この流れは、勝敗を超えた相撲界の連帯感を表しています。

作法意味
右手で柄を持ち左手で添える礼儀と安定
水は必ず吐き出す清めと衛生
勝敗関係なく渡す連帯感と儀礼

力水の現代的な変化

近年、衛生面や国際的な観客対応の観点から、力水にも変化が見られます。新型感染症の流行以降、柄杓を介さず紙コップで渡す方法や、アルコール消毒を併用するケースも増えています。こうした変化は伝統とのバランスを取りながら進められており、儀式の意味を損なわずに現代的な安全性を確保しています。また、解説付き観戦や動画配信により、力水の背景や作法がより広く理解されるようになりました。

時代力水の変化
江戸時代神事色が強く形式重視
昭和興行的要素と共存
現代衛生対策と国際化対応

まとめ

力水(ちからみず)は、大相撲の取組前に行われる身心を清める神聖な儀式です。単なる水分補給ではなく、神道の禊の思想に基づく清めであり、相撲の精神性や礼儀文化を象徴しています。力水は、控え力士から次の力士へ柄杓で渡され、受け取った力士は口をすすぎ、吐き出して口元を拭います。この一連の所作には、土俵に上がる者としての心構えと、相手や観客への敬意が込められています。

現代では衛生面や国際化の影響を受け、紙コップや消毒の導入など変化も見られますが、その本質は変わっていません。勝敗に関わらず交互に渡される力水は、相撲の世界における連帯感や相互尊重を示す象徴的な瞬間です。観戦する際、この短い儀式に注目すれば、相撲の奥深い魅力と伝統の重みをより強く感じられるでしょう。

力水は取組の花形ではないものの、大相撲の格式と精神を支える静かな主役とも言えます。観戦初心者や外国人観客にとって、この儀式の意味を知ることは、相撲を単なるスポーツではなく、日本文化として深く味わう第一歩となるはずです。

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