稽古まわしとは?本場所用まわしとの違いを徹底紹介

豆知識
               

監修者・水口 剛

元力士・祥鳳剛(本名:水口剛)。春日山部屋に所属し、2004年に初土俵、幕下東四枚目まで昇進。白鵬関の代理として弓取り式を務めた経験を持つ。
引退後はYouTubeチャンネル「お相撲ぐっちゃんねる」の運営や稽古会の主催、相撲体験イベントの企画などを通じて、相撲文化の国内外への発信に尽力。
Netflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』では炎鳥役として出演したほか、舞台パフォーマンスなどにも参加。
現在は訪日外国人向けのインバウンド相撲イベントや相撲ショーを開催するほか、パーソナルトレーナーとしても活動し、相撲の魅力を伝えながら健康づくりにも貢献している。

相撲の世界で欠かせないのが稽古まわしです。これは力士が日々の稽古で身につける布製の装具で、怪我の防止や身体の安定を目的としています。見た目は質素ですが、力士の鍛錬を支える最も実用的な道具といえます。本記事では、相撲に初めて触れる人や外国人の方に向けて、稽古まわしの特徴や役割をわかりやすく解説します。

稽古まわしの基本

稽古まわしは雲斎木綿と呼ばれる厚手の布で作られています。幕下以下の力士は稽古と本場所で使用し、十両以上の関取は稽古時のみ着用します。長さは7メートル前後、幅は50センチほどで、腰に強く巻き付けて結びます。

見た目は黒か白の布にすぎませんが、力士にとっては体を守り、稽古の質を高める大切な道具です。特に初心者や外国の方には、この質実剛健な布の存在感が相撲文化を理解する入り口になるでしょう。


白と黒の稽古まわしの違い

稽古まわしは力士の地位によって色が異なります。十両以上の関取は白色、幕下以下の力士は黒色を使用します。色分けは単なる慣習ではなく、稽古場における序列を明確に示す役割を持ちます。

力士の地位稽古まわしの色使用場面
幕下以下黒まわし稽古と本場所
十両以上白まわし稽古のみ

黒まわしは努力を重ねる若手の象徴であり、白まわしは観客の前で土俵に立つ関取の証です。


素材と特徴

稽古まわしは見た目は簡素ですが、素材にはこだわりがあります。特に雲斎木綿は耐久性と保護性能に優れており、転倒時の怪我を防ぐ働きをします。

素材特徴力士に与える効果
雲斎木綿厚手で丈夫擦り傷や打撲を防ぐ
木綿布全般吸汗性が高い汗を吸い取り快適性を保つ
麻布(歴史的に使用)軽く通気性あり古くは夏場の稽古で使用された

雲斎木綿は現代でも主流で、激しい稽古に耐えられる唯一の素材といえます。


稽古まわしの役割と目的

稽古まわしの役割は大きく分けて三つあります。

  1. 身体の保護
    厚手の布が腰や腹を覆い、投げや押しで倒れた際の衝撃を和らげます。
  2. 動作の安定
    きつく締めることで腰が安定し、四股やすり足といった基本動作が正しく行いやすくなります。
  3. 精神的な効果
    まわしを締めることで気持ちが引き締まり、稽古に集中できるようになります。

締め方の工程

稽古まわしは長い布を腰に何重にも巻き付けるため、正しい手順を踏まないと緩みやすくなります。

工程方法ポイント
1布の端を腰骨に当てる始点をしっかり固定する
2強く引きながら巻く緩まないように力を込める
33〜4重に巻き重ねる厚みを出し腰を安定させる
4最後を結ぶ激しい稽古でも解けないよう工夫

経験を積んだ力士ほど締め方に熟練し、自分の体型に合わせて調整しています。


稽古まわしの歴史と背景

稽古まわしの起源は江戸時代にさかのぼります。当時は麻布や木綿を用いた質素なまわしが使われていました。明治以降、雲斎木綿が広まると、丈夫で長持ちする現在の形に近づいていきました。

弟子入りした力士が初めて稽古まわしを締める瞬間は、相撲界に足を踏み入れた証です。そのため師匠や兄弟子が締め方を丁寧に教え、弟子の門出を支えます。この伝統は今も続いており、まわしは単なる道具ではなく精神的な意味を持っています。


稽古風景と稽古まわしの存在感

稽古場では、白と黒のまわしを締めた力士が汗を流しながらぶつかり合っています。派手さはないものの、土俵に立つ姿は迫力に満ちています

朝稽古では、力士がまわしをつかんで投げ飛ばす場面が頻繁に見られます。まわしは技をかける際の支点となり、攻防の要として機能します。使い込まれた布が体に馴染み、汗と砂で重くなっていく様子は、厳しい稽古を物語っています。


本場所用まわしとの違い

稽古まわしは質素で実用的ですが、本場所では別のまわしが使われます。ここを理解すると相撲の奥深さがより感じられます。

種類特徴使用場面
稽古まわし木綿製、黒または白稽古、幕下以下は本場所
本場所用まわし絹製で光沢あり十両以上の公式取組
化粧まわし豪華な刺繍入り土俵入りの儀式で使用

稽古まわしが実戦着であるのに対し、化粧まわしは儀式の衣装です。


初めて相撲を見る人へのポイント

初心者や外国人の方が稽古場を訪れる際には、まわしの色と使用場面に注目すると理解が深まります。黒まわしは修行中の力士、白まわしは観客を魅了する関取の象徴です。

また、新しい布と使い込まれた布の違いにも目を向けてみましょう。新品は硬く体に馴染みにくいのに対し、長年使われたものは柔らかくなり、まるで体の一部のようになります。布に刻まれたしわや色合いは、稽古の歴史を物語っています。


まとめ

稽古まわしは相撲の稽古において不可欠な存在です。体を守り、動きを安定させ、心を整えるという多面的な役割を担っています。色による序列の違いや歴史的背景、正しい締め方を知ることで、相撲への理解が一層深まります。

相撲を初めて知る人にとって、稽古まわしは文化を理解する入口です。稽古場を訪れた際には、白と黒のまわしに込められた意味や、力士がその布に刻み込む努力の跡に注目してください。質素ながらも力強い布の中に、相撲の精神と歴史が凝縮されています。

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